口臭

父の地獄の釜で人間を煮ている時に漂ってきそうな口臭に安心する日が来るとは。


喘息で病院に行き、「味覚や嗅覚はありますか?」と言われて一瞬不安になるものの朝の六時頃に嗅いだ強烈な父の口臭を思い出して少し安堵した。


父と母の朝の寝室の匂いはひどい、確実に何人か煮えている。人間が。
そんなゴロゴロ煮えた人間共の死体を踏みしめるようにヨロヨロと匂いの根源の二人が起きてくる。強烈な口臭達を引き連れて。

二人は自分の口臭の酷さが分からないので「え?そう?あんたは鼻が敏感やねえ~」と言ってきてその度に物凄く腹が立つ。

私が敏感なのではない、二人が異常なのである。地獄の釜で煮られる寸前になっても二人は自分の口臭がここと同じ匂いがする事に気づかず最後まで自分は口臭が酷い事は知らずに死んでいくのだろうか。
そんなのを想像する自分は酷いと思うが、二人の口臭の方が酷い。


一応口うるさく何年も伝え続け私以外の人間にも指摘されたことを受け二人も気を付けてはいるのだ、歯は私より長く磨くし、口臭予防の紫色の液体を口に含んでくちゅくちゅしたり、食後に人と会う時はブレスケアを飲んだりしている…にも関わらず、今朝も我が家は地獄の匂い。


二人の年齢による口臭かと思ったが昔から私はこの匂いを嗅いで育ってきている。
麻薬を探し出す警察犬のように寝起きで特に酷い匂いを放っている二人なら目をつぶっても見つけれる自信がある。沖縄あたりまでだったら頑張れば何とか見つけれる気がする。

小さい頃、私の顔が汚れたら父はハンカチに自分の唾を吐きかけ濡らしそれで私をゴシゴシと拭いていた。

その拭き方って人間のしかも実の子供にする拭き方なのか?車に落ちていた鳥の糞にもタオルに唾を吐きかけ拭いているのを見た時幼心ながらに思った。幼い頃の私の顔からは毎日父の口臭がした。

そんな訳で特に父の口臭は幼い頃から覚えさえられている。


今気づいたが、そうか、私は生まれてからずっと地獄の釜で人が煮られている匂いを嗅いで育ってきたのか、そうか。逆にこれを長所として地獄で人を煮る係に任命されそうで怖い。地獄の釜の匂いのソムリエだと思われたら悲しい。怖い。



そんな困り果てていた人生、たまたまあさイチで口臭に一番有効なのは「舌みがき」だと見た。

さっそく実践してほしい!これで私も人を煮る仕事につかないで済む!と思い録画をしたもののその舌みがきを教えてくれる病院の先生によると中途半端にやると余計に隠れていた汚れが出てきて匂いが酷くなるのだそう。

中途半端。

私の父は飼っている犬のドックフードを目分量で今のグラム数が分かるという。
分かっていないのだ、全く分かっていないのだ。しかし父は自分を信じてやまない、私にない強さを持つ人間で毎朝犬の餌を多めにやりすぎている。

(別に父がそういったグラム数に関わる仕事をしているわけでもなく、私がドックフードを測っているのを横で一回きりそれとなく見ただけでその自信なのだ。こんなに自分を信じれる人はいるだろうか。)


母はともかく、そんな自分を信じ切る自信満々の父に正確に舌みがきの方法を教えられるだろうか。「俺はこれで分かるから。」と、自己流で今まで生きて貫いてきた父に。



私にはそんな自信があるわけがなく、今より最低な状況になるくらいなら…と結局変わらず異臭を毎朝嗅いでいる。

おわり






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