夢小説





秘境のように静かな教室でバランの束を一人蹴り続けている緑山くんの顔が夕日の眩しさで見えなかった。





「最近、時々弁当箱からバランが無くなるんだよねー」

色とりどりのおかずに全てケチャップをかけるケチャラーのなっちゃんが言う。

売店のお総菜パンをかじりつつそうなんだーと返す。

お昼休みの教室は、なっちゃんのケチャップをかけたお弁当箱のようにどれも皆同じに見える中、クラスメイト達はそれぞれの色を出そうとしている。教室をはしゃいでふざけ回る者、ホコリがお弁当にかかるが何も言えず黙っている者、それを見て半笑いでお調子者を注意する者、我関せずと本に集中している者─…

「いや、バランが無くなるって言うのはね、使い過ぎたから家から無くなったとかじゃなくて、本当に弁当箱から無くなるんだよ!」

食人鬼のように口の周りにべったりと赤いケチャップをつけつつなっちゃんが続ける。
お総菜パンの落としたコーンが気になるふりをしつつ数回頷く。

「お母さんが言っててね、気づいたんだけどね…ほら、今はあるでしょこのバラン。それが家に帰ると無くなってる時があるんだよね!」

ケチャップが近距離で飛んでくる、赤い球をよけつつ頷く。
聞いているよ!というジェスチャーだけは示していく。

「怖いよね~何でなんだろ、それが結構不定期にあるんだよね。桐たんに聞いても同じような現象が起こってて聞いていくとどうやらクラスの皆それに悩んでいるらしいの!」

明らかに悩んでないやろ。

クラスのみんな絶対悩んでいない。

そんなに暇なケチャラーのなっちゃんが心底羨ましくなりさり気なく落としたコーンをなっちゃんのバックに入れた。

「ほー、怖いなー」とだけ私は言う。









放課後、私は帰路の道を引き返して学校に向かっていた。

罪悪感である。

なっちゃんが放課後のテニス部に向かった後こっそり机の上にコーンでケチャップの「ケ」を作ったのがずしりと胸にのしかかる。

なんて馬鹿なことをしたのだろう、ケチャップのケをコーンで作るイタズラ。教室の机の上に。

バックにお総菜パンのコーンじゃあ飽き足らず家から缶詰のコーンを持ってきてまで。

もう充分に反省したので他人にこれ以上責められたくないのでコーンを回収しに教室に戻ろうというのだ。なんなんだこの悔しさは。

ちょっとした腹いせのつもりだが、なっちゃんは恋愛バカだから結婚の「ケ」だと勘違いして新しいプロポーズだと思うかもしれないし、普通に傷ついて泣くかもしれない。

ああ、なんでこんな…

この世にコーンの缶詰がなければ私はこんな事をしなかったのに。トウモロコシがこの世になければよかったのに。ジャンプのドクターストーンでトウモロコシの重要性は重々知りつつも憎んでしまう。


私は多分、お母さんが作った綺麗なお弁当に遠慮なくケチャップをぶっかけれるなっちゃんが嫌いなんだと思う。

脳内もケチャップで侵されたようにバカな事ばっかり言ってヘラヘラしてばかりのなっちゃんが。

畑に実るトマトのようにどれも同じような制服を着て並んだ私たちはその中で個性を出そうと必死なのに、その中で少しでも綺麗なトマトになろうと必死なのに、それを尻目に元から完熟トマトのなっちゃんが。


誰もいない廊下で遠くから何かしらの運動部の野太い声が聞こえる。
何となく静かに歩いてしまう。
コーンを回収するためにこんなに緊張してるなんておかしくなってくる。

かしゃっ、かしゃ、かしゃっ

近づくに連れて妙な音がきこえてくる。

どうやら私の向かう教室の方から。

音を殺して近づいてみる。


緑山君が、夕暮れの教室でバランの束で蹴鞠をしていたー……








「何しているの?」

私は怖いという気持ちが出てくるより先に聞いてしまった、聞かざるをえなかった。

平安時代の遊び、蹴鞠。

それを令和の時代にバランの束で?

いつの間にか教室がジャングルで私は探検隊の服を着ており、緑山君が珍獣に見える。私は丸腰でとりあえずコミュニケーションを図ってみる。

予想に反して向こうは日本語で答えてきた。

「バランがね、憎いんだ。」

一歩、一歩、緑山君に近づく。

角度が変わって夕日の眩しさで見えなかった緑山君の顔が見えてくる。

ーーーーーーその顔は手負いの獣のように苦しそうだった。

「…バラン、もしかして盗んでいるの?」
蹴っている輪ゴムでまとめているバランの量が尋常ではない、まとめ買いをしただけかもしれないけどなっちゃんの話しが本当ならもしかしてと聞いてみた。

緑山君は答えずに私が敵か味方かはかっているような間を作った。

慌てて答える
「私はいつもお総菜パン派だから、ほら家、忙しいから両親。だからバランはどうでもいい、割とマジで。」

緑山君は一瞬見定めるような目をしてから、
「ああ、だからコーンでアイツの机にイタズラしたんだ。」と珍獣を見るような目で言った。

見られていたのか。
向こうから見たら私も珍獣だろう。

缶詰のコーンを家から持ってきてクラスメイトの机に並べる私、人目を盗んでバランで蹴鞠をする彼。
ここは間違いなくジャングルの奥の秘境の地。
誰にも聞かれない声で彼に問う。

「どうやってバラン盗んだの?むずくない?」
彼が言うに、五時間目や六時間目の体育がある時間割の日に病弱キャラの彼は保健室に行く前に教室に寄って皆のお弁当からバランを漁っているという。そして漁るバランは使用済み、つまり皆がお弁当を食べた後のバランじゃないといけないらしい。


しかし、彼は話しながらもバランの束を足で蹴り続けることを忘れない。
病弱キャラではなかったのだろうか、それもバランのためのウソなのだろうか。聞くのはやめた。

それよりその足さばきにウットリしてしまった、夕陽に照らされたバランを蹴る足の影さえ美しい。

何となくバランの束を蹴る彼を眺めて黙った、向こうもこの珍獣に敵意はないと判断したのか目線を憎いバランに落として蹴り続ける。

「コーン片付けるなら今のうちでしょ。」
緑山君の言葉に慌ててコーンを片付けつつ、「その蹴鞠するの、家じゃダメなの。」聞いてみる。

「ここで蹴るのが一番スッキリする。」
少し早口で答える、踏み込み過ぎたかなーとコーンをゴミ場に捨てる。

あまりいては邪魔になるだろう、この足さばきは本当に美しいのでこれからも蹴りまくって精進してほしいと伝えて去ろうとしたら呼び止められる。

急に、緑山君がバランの憎しみの原因を語りだした。
聞いてほしかったのかもしれない。
体操服で乳首が透けるのを気にしていた彼は食べていたお弁当箱をふと見てバランをマスキングテープで胸に張ったら透けないと思ったらしい。そんなものが長時間くっついていられるわけがなく、そのまま意気揚々と運動していた彼は皆の前で服のすそからバランが落ちてきた瞬間を見られてしまいそこから転落人生だったらしい。

「それでようやく転校して再スタートなんだよ、僕、実は二年先輩なんだ皆より。」

じゃあ大事なスタートをバランの束を盗んで蹴ったり危ないことはしない方がいいと思うけどそうはいかない彼の葛藤や憎しみがあるのだろう。
とてもじゃないがその話は信じられなかったし、ウソでもいいのだけど。

「本当に平安貴族より蹴鞠が上手だよ」

とだけ再度褒め称えて伝えると「これは蹴鞠じゃない。」と彼が苦笑した。






今日も私たちは隠れている。

トマト畑の中に紛れて、皆と同じ制服を着てトマトのような顔をして、珍獣だと気づかれないように。









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